執筆者が「訂正申請」内容を明らかに
27日午後、検定対象となった日本史教科書の執筆者、坂本昇さんが記者会見し、文科省への「訂正申請」を前にその内容を明らかにしました。
「訂正申請」の内容は「日本軍によって『集団自決』を強いられた」との記述を明記し、新たに「集団自決」に脚注を付け、「『強制集団死』とよぶこともある」と記載。また引用史料でも「軍から命令が出たとの知らせがあり、いよいよ手りゅう弾による自決が始まりました」と軍の強制を明確に示す内容も追加します。さらに、沖縄での「9・29教科書検定意見撤回を求める県民大会」の記述も加わる予定です。
文科省は直ちに検定意見撤回を!
しかし政府・文科省はこれまで「訂正申請」に対応するとは言っていますが、何を根拠に対応するのか、どこまで記述の回復を認めるのか、まったく不透明です。文科省は教科書会社各社に対し、検定規則の細則を根拠に「訂正申請」後の記述内容の公表を禁じており、その後の教科用図書検定審議会での審議内容もすべて公開される予定はないため、今回の坂本さんの会見は、文科省の「密室審議」に風穴をあけるものですが、検定意見が撤回されず、そのまま生きつづけている限り、この訂正申請に対しても、検定意見にもとづいて教科書調査官や検定審議会が、恣意的に訂正申請の修正を求めてくる可能性が強いといわなければなりません。その意味でも、検定意見の撤回があくまで必要です。
沖縄タイムス
2007年10月28日(日) 朝刊 1・22・23面
「軍の強制」明記/執筆者坂本氏 申請へ
【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、検定意見の対象になった五社のうち一社の執筆者を務める高校教諭の坂本昇さん(51)が二十七日、東京都内で記者会見し、自分が執筆する教科書に「日本軍によって『集団自決』を強いられた」との記述を明記して文部科学省に訂正申請する方向で準備していることを明らかにした。また、「集団自決」体験者による「軍から命令が出たとの知らせがあった」との証言を史料として掲載し、伝聞形式で「日本軍の命令」を明記することも検討している。
このほか、二〇〇七年に国内で起こった話題として(1)今年の教科書検定で日本軍の強制記述が消えたことが問題になった(2)検定意見撤回を求める県民大会が、一九九五年の(米兵による暴行事件に抗議した)大会の参加者数を大きく超える規模で開催された―ことを新たに加える方針という。
執筆者の坂本さん 自責「辞任も覚悟」
「沖縄の人たちの思いを受け止めることができなかった」。沖縄戦の「集団自決」をめぐる教科書検定問題で二十七日、「日本軍の強制」を盛り込む形で文部科学省へ訂正申請する内容を公表した教科書執筆者の高校教諭、坂本昇さん(51)。記者会見では「自責の念がある」と、歴史教科書執筆者としての苦悩をにじませた。
教科書検定では制度上、教科書検定審議会が出した検定意見に異議を申し立てる機会が設けられている。だが日本軍の強制に触れた記述の削除を求めた検定意見に、教科書会社も坂本さんも声を上げることはなかった。
「異議を申し立てても、判定するのは文科省の同じ調査官。検事と裁判官が一緒になったようなもの」。坂本さんは検定制度の在り方を批判する一方で、「どうせ駄目だろうというあきらめの気持ちがあった」と当時を振り返った。
転機になったのは、沖縄の人たちから次々にわき上がった怒りの声。「その粘り強さに背中を押され、励まされるような思いがした」
「教科書の執筆者を辞める」。教科書会社が申請内容の見直しを求めてきた場合の対応を聞かれ、坂本さんは強い覚悟を見せた。
[解説]
「透明性」確保に先手
沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、検定意見が付された五社のうち一社の執筆者が「日本軍の強制」「日本軍の命令」を、本文と証言史料で明記する方針を明らかにした。申請前に記述内容を発表した坂本昇さん(51)の異例の行動は、他の教科書会社や執筆者に弾みをつけるのは確実だ。文部科学省が申請内容に異を唱えることも予想されるが、坂本さんの事前発表で記述の修正過程の「透明性」が確保される利点も見逃せない。
今回の教科書検定に県民が強く反発したのは、検定意見が付されるまでの審議過程に「密室性」が極めて強かったことが一因だ。
文科省職員の教科書調査官の原案が、議論のないまま沖縄戦の専門家がいない教科用図書検定調査審議会で追認されたことは、本紙などのマスコミ報道がなければ県民に伝わらなかった。
文科省は「静謐な検定環境の確保」を理由に審議を公開しておらず、これが検定制度の不信感増幅にもつながっている。今回の訂正申請でも文科省は検定規則の細則を根拠に、申請後の記述内容の公表を教科書会社に禁じた。
執筆者は「軍命や軍の強制があまりにも明確だと、教科書調査官が修正を要求するだろう」と警戒している。
記述内容が事前に公表されなければ、文科省が修正を要求した際のやりとりが、再び県民不在の「密室」で処理される懸念は強い。
申請前に記述内容を発表した坂本さんの対応は、文科省への「抑止力」にもなり得る画期的な取り組みだ。
他の四社は記述を公表するかどうかを明確にしていないが、内容を事前に公にして県民に伝える意義を、前向きに検討してほしい。(東京支社・吉田央)
毎日新聞 2007年10月28日 東京朝刊
「日本軍が強制」強調 脚注や引用史料追加、訂正申請へ
琉球新報 2007年10月28日
主語に「日本軍」明記 執筆者が異例の表明、週内にも訂正申請
朝日新聞 2007年10月28日
「軍の強制」復活申請へ 教科書執筆者「新証言を追加」
NHKニュース 2007年10月27日
“訂正申請 軍の強制性強調”
日本テレビ NEWS24 2007年10月27日
教科書執筆者「軍の強制」明記の記述案提示